お山の道開き

tokuyoshi2005-07-18

 遠野盆地の北東に恩徳(おんとく、おんどく)という山あいの小さな集落があって、この集落をすぎるとまもなく立丸峠(たちまるとうげ)という険しい峠道となり、その向こうは川井、宮古へとつづく。
 集落をずっと守ってきた神様は熊野権現様である。この本尊がある山を権現の森、というと初めて知った。
 地図にその名前は載っていない。ホコラのある小さなピークは標高約1,000メートル。登山口のある国道340号線から400メートルの標高差、マップ上の水平距離はおおよそ3㌔。のんびり登ると90分ほどの、ちょっとした登山で、ピークに至る最後の直登は、ときによって斜面に手をつかないと登りにくい斜度である。
 年に一度、本来は旧暦の7月7日だったが、いまは7月のみんなの都合がつきやすい日曜日、刈り払い機や草刈り鎌をもって、参道の刈り払いをする。都合でいけなかったり、という年もあったが、もう10年以上、付き合いをさせていただいている。
 一帯は国有林である。登山道の下のほうは、この地域にはあまりないヒノキ林で、その林の間伐が今年からはじまっていて、あたりにヒノキの香りが立ち込めていた。
 まもなくすぎると、広葉樹林、ブナとミズナラを基調とする森となる。森のまもりがみかと思え、畏敬の気持ちがわきおこる、存在自体が神々しいようなブナやミズナラの巨木に出会うことができる。
 娘は登山中ひたすらセミの抜け殻を集めていた。
 同行した北上川の河口住人である友人のカワウソ君をはじめ、この集落の人やこの集落から30年も前に遠野の盆地に下り、それでも、この土地にこころを寄せているオンチャアたちとともに、この山の頂でお神酒をいただいた。源流のお神酒は体内を通過し、この山にふたたび放出される。やがてその水分子は、清流となり、恩徳川、小烏瀬川、猿ヶ石川と名前を変えつつ、やがてカワウソ君の住む北上川の河口を通過して、太平洋に至る。
 下山時、コマドリが高らかに鳴いた。