浅い春の、早い朝の匂いについて

 あと何回かは雪が舞うのかもしれないが、雪の季節から雨の季節に、やっと、と言っていいと思うが、変わった。
 春先の朝の雨の日の独特の匂い、というのがあると思う。雨じゃなくても湿気ている浅い春の朝の匂い。有機質で、ちょっと、発酵だか腐敗だか、それはわからないが、動物的存在である何者かの匂いだろうか、全体としての植物の匂いだろうか、とにかく、生き物的ではあるのだが、すっごく薄ぼんやりとしている、しかし、明瞭に感じ取れる匂いが覚醒しきっていない脳に触れる。
 この匂いの感覚は子供のころからだ。だから岩手とか東京とか関係ない季節独特の匂いなのだと思う。少し鉄分が混ざったような。
 その存在に対してなれなれしくはできないけれど、懐かしいような、そんな匂いが、少し寒い外気を室内に導くために窓を開けたとき、肺に思いがけず充満し、匂いに気おされて、頭の中の鼻腔がその感覚をもっと知ろうと鋭敏になる。
 でも、その正体は分からずじまいだ。曖昧ながら気づいているのは朝6時以前から朝7時ごろまでの現象で、7時過ぎると消え去っているだろう、ということだ。ほかの人はどうなんだろう。