増えた
遠野の荒川高原に放牧されているのは牛や馬ばかりではない。犬もいた。犬は馬たちのエリアにいた。
どこの犬? なぜそんなになつっこい?
いろんな人が目撃していた。一週間以上もずっと放牧地にいたらしい。
腹をすかしていたのだろう、まわりを飛び回るアブをとらえて食べていた、という人もいる。そりゃあそれですごい。アブ喰い犬じゃないか。まあ、腹が減っていたのだろう。
なんというか、ごうをにやして、という感じだ、しゃあない、このままじゃあなんともならん、という思いで連れ帰った。
抱き上げようとするとうなったが、紐つけるとさっさと車に乗り込み、さ、行こか、という感じで後部座席の足元で伏せた。なんなんだ。
いずれにせよ、やっかいが増えた。森といい、馬といい、猫といい、草といい、犬といい、人といい、生きている連中はやっかいだ。自分のことをそう思うから、きっとまちがいない。
どんな犬だ? メス犬だけれど、まだ若いんじゃないか。調教のようなことはそれほどされていない。でもかわいがられていた。こどもが好き。それから、家のなか、あるいは部屋で飼われていた。
娘が名前をきめた。「ゆき」ちゃん。「雪」。いまいる犬がフウ。「風」。あわせれば「風雪」だ。夏がおわりゆく季節に、充分、寒そうな名前たちだ。
生活パターンが微妙に変わる。生活コストが微妙に上昇する。気にかかる存在がたしかに増える。しょうがないなあ。