遠野在郷流パブ


 ここは農家の納屋の2階である。ここのあるじが(構想から始めるとたぶん10年近くかかって)納屋の2階をみずから(そして仲間とともに)改装し、社交場(溜まり場)と変えた(かつ、快適に寝ることができる畳敷きの別室までしつらえてある)。
 こんなに快適な、飲みかつくつろげる場所はめったにない。ゆったりしていて、遠慮がいらず、いつもまにか互いの心がほどけていって、そしてふと窓の外を見やるとはるか下の遠野の町の夜景がきれいで…。
 この納屋がみんなに開放されて(?)もう5年ぐらいになるかと思う。そのかん、ここの農家でたまたま知り合った、それぞれ異なる大都会からやってきた二人の結婚披露宴もあった。遠野と都市を結ぶことを野心とした地域通貨カッパの最初の交換市場にもなった。この地域の将来を論じるための明け方までの会議場でもあった。ようは、ここでみんなで延々としゃべり、みんな(そしてぼくは)ずいぶん酔っ払った。
 きょうもきょうとて、東京の学生たちがいりゃ、行政マンもいる、近郷近在の農家も寄り集まれば、この地域で新規事業にチャレンジするビジネスエリートたちも混じる。そして、その他大勢のわれわれもいたりして、見境なくわいわいがやがやが夜更けまでつづく。
 この納屋でたぶんなんども飲み明かし、英国のパブの存在意義などを語ったいまは在英のA教授を思い出しつつ、これはもしかすると英国流かつツーリズム流のパブ、というものの原点と似ているのではないだろうかと、ときどき思うのだった。
 遠野のツーリズム、などとエラソーに言ったりすることもあるのだけれど、はじまりのひとつがこの納屋を改装し、ここにひとが気ままに寄り集まれるようになったことにもあるのだよなあ、という感慨があることだけは確かかな。