低空飛行の鳥

 いま住んでいるところの下に川があって、川といってもどちからというと渓流なのですが、朝、犬を連れて、川と平行して走る林道をゆくと、ひんぱんに黒っぽい鳥が川面スレスレを飛んでいるのを見ます。
 ハトよりも小ぶりかな、尾が短くていささか不恰好にも見えるその鳥は、渓流の早い流れよりもなお早く低空飛行を繰り返し、唐突に岩や石のうえにとまっってみたりする。
 どうやら水の中にいる餌を探しているらしいことはわかるのですが、流れの急な水面のうえから水中が見えにくいということは、経験的にだれもが知っているので、そんなことで見えるのだろうかと余計な心配をしたりもします。
 ところが聞いた話によると、彼らは水中を歩くこともできるらしい。急な流れの水中に身を投じ、泳ぐのではなく、歩く、というところに独特の適応というか身体能力の特異な発達のようなものを感じます。
 写真を見ると、水中では銀色の鳥に変身していて、それはどうやら羽根からでる気泡が銀に輝いているということらしいのですが、それにどんな効果があるのかは残念ながら知りません。
 天気のいい日に見ると、黒というよりチョコレート色のからだで、あいもかわらず超低空飛行を行っています。繁殖期はいざ知らず、編隊を組むことなく単独飛行が基本のようです。
 それにしても大空高く舞う、というのが人間が勝手に思う飛ぶことのできる鳥の醍醐味かと思うのですが、彼らはそういう経験をするのでしょうか。どうも一生涯、飛ぶ能力をもっぱら沢や渓谷からでることなく、低空飛行のためだけに利用しているように思えてならないのですが。
 もっともイワナやヤマメが住む清流を生息環境として生きるのは案外快適なことかもしれません。
 この鳥はカワガラスという名前だそうで、どうも命名した人はずいぶん即物的な名前をつけてしまったものだなあと、覚えやすいので文句はないのですが、ほかになにかなかったものだろうかと少し思うのでした。