カラス

 山間の河岸段丘のような森の中の斜面に住みだして4年目になるが、いまだスズメが来ない。スズメの姿を見かけない、というのはここを人里としてスズメに認知してもらっていない、というような感じがして少々淋しい。その代わり、野鳥は住み着いているのも、どこからか渡ってくるのも、季節によっていろいろ来る(分かるのも分からないのも含めて)。春分の前、雪がいっぱいあったころ目立ったキツツキの類の類から、最近のさえずりで多を圧しているのはカラ類とメジロである。それからカラスが来る(カラスは一年中いるが)。ここはハシブトガラスが大勢を占める東京と違って圧倒的にハシボソガラスの領域である。にもかかわらず、一時、ハシボソガラスの2、3羽がひんぱんに馬がいるパドック周辺を偵察飛行していたのが見えなくなって、最近は単独行のハシブトガラスがやってくる。彼あるいは彼女は、牧柵の上段の横木に止まってさかんに鳴く。それから雪解けがおわったばかりの泥だらけのパドックに降り立ち、ピョンピョンとホイップする。その距離3メートルぐらい。カラス、僕、馬の関係で地面に立っている(カラスと僕は2本足、馬は4本足で)。居丈高でも、警戒する雰囲気もなくカラスがこのように和みながら近づいてきたのは初めてような気がする。とりわけ画期的なのは、カラス、馬、人の順番ではなく、カラス、人、馬の順番であったことだ(と、勝手に思うのだが)。さっき、彼あるいは彼女と書いたが、こうやって書きながら、どうも彼女という気がしてきた。産卵をこれから予定している彼女が、巣材を求めてやってきているのではないか。交尾が最初なのか、巣作りが最初なのか、どっちなのかわからないのだが、産卵するための住宅建材が必要で、馬のタテガミを取りに来た、ということなんだ、それも切羽詰って、という推理。どうしてそう思うかというと、ここで何度か馬の背やタテガミにとまるカラスを目撃したことと、そのうちの一回は確かに馬のタテガミをくちばしに咥えて飛び立つのを見た、ということを思い出したから。まあ、彼女ではなく彼が巣作りとそのための材料集め担当でも、協同作業でもいいのだが。そのうちくわしいような人に聞くか調べてみようか(知っている人は教えてね)。しかしそもそもカラスの雄雌は一見して区別がつくものなのだろうか。カラスはひたすら黒いだけで、素人目には違いが存在するのかすらさっぱりわからない。